2014年10月28日火曜日

バックアレー(居住者専用の生活道路)

聞き手T:高原
受け手M:モントリオールJCPデザイン増本氏 


 
T 海外での住宅地の開発で、住宅前面のメイン道路には殆ど歩道が付いています。
    そして歩行者を守るために、自家用車が車庫へ入る時にその歩道を横断させない。その為にその住宅の背面に自家用車兼生活道路を設置すると本で読んだことがあります。
 
  日本では宅地開発において、土地が狭いし地価が高いので、そのようなバックアレーのスタイルは皆無です。それどころかセンターラインが入るようなメイン道路には歩道が設置されていますが、支線道路には設置がないのが殆どです。
   ただ、海外を訪れたときに、一度だけそれらしいバックアレーを見た記憶が
     ありますが、ほとんど目にした記憶がありません。むしろ、住宅地ではメイン道路
     からの乗り入れを確認しています。そのあたりの実情を教えていただけませんか。
  (スタッフはシアトルを訪問した時に、見た記憶があるそうです。下記写真)
裏通り

表通り


M:バックアレーは、イギリスではじまりました。産業革命と共に都市に集中した
  労働者の集合住宅としてテラスと呼ばれるタウンハウス群を建設し、裏通りから
  暖房用の薪などを運び込んだといいます。裏庭には鶏小屋や物置などもありました。



モントリオールのバックアレイについても調べてみました。
モントリオールでは、バックアレイをRuelle(リュエル)と訳して呼びます。
カナダの歴史はケベックから始まりましたが、イギリス人が多く住んでいた
モントリオールに、この裏通りが取り入れられました。初めは裏通りもなく、
表通りから車馬寄せの門をくぐって細長い敷地の中庭に入っていました。
 
 
 馬車寄せの門は、表通りから見るとこんな感じで、改装して残っている家もあります。

町が大きくなってくると馬車用門のスペースも居住空間として使うようになり、裏庭を縦断するサービス用の裏通りが出来ました。昔のRuelleでは、車でなく馬車が行き来していたわけです。
1890年から1930年にかけてRuelleは、都市計画に積極的に取り入れられ、表通りとは異なり名前はついていませんが、実存するものは450kmにもなります。いまは”Ruelle verte"グリーンバックアレイとしてモントリオールの特色ともなっています。
 
 
:バックアレーはフランス語で(Ruelle)とも呼ぶのですね。そして、イギリスの
  産業革命時代に生まれて当時は車ではなく馬車用通路であったのですね。
 
 
:モントリオール以外にも魅力的なRuelleはあります。

フィラデルフィア
 
イギリス系移民が基礎を築いた町(たとえばフィラデルフィアやボストン)には、
馬車の道が起源のRuelleがあります。
Ruelleはそこの住人以外の車は通り抜け禁止ですから、子供たちの遊び場でもあり、
車が入ってくれば道を空けます。知らない車の入ってこないRuelleでは、車と人が
共存しています。

 

 
:昌子さんから送られてきました写真のどれを見ても感激しますよ。とにかく、安らぎがあって、道路で子供たちが遊んでいる風景は現代の日本で見かけることはありません。そこで暮らす人々の生活が感じられるシーンがあります。
 
:私は、デュプレックス形式の家に住んでいるのですが、以前ブログでお話ししましたように、私の家の前では、現在水道工事が行われています。それで、このバックアレーがかなり重宝しています。なんせ、買ってきた物を後ろからすぐに入れられるからです。ただし現在、モントリオールでは、こういったバックアレーが戸建ての住宅地エリアにはほとんどありません。
 
:ほー、でもなぜこんなに素敵で便利、そして安全地帯でもあるバックアレーが最近のカナダでは採用されないのでしょうか。
 
:そこを管理する経費も関係していますが、それよりも使われなくなり、放置され、ごみに埋もれたRuelleが衛生上思わしくないことと、場所によってはドラッグの注射器が捨ててあることや、人通りが少ないので危険で歩けない、車を停めているといたずらをされるので、表通りに停めるようになるなどといった理由があるようです。そのため、市は継続して郊外の住宅計画には取り入れなくなったというわけですね。
 
:なるほど、住人のモラルの低下で治安や衛生的な面で問題が生じてきて、採用が少なってしまったのですね。経費の面でという事ですが、Ruelleは市の所有地ということですか。
 
:そうです。市の所有地ですが、近年ダウンタウンエリアでは、私有を認めているところもあります。私有とした場合、土地の不動産税は、個人が払うことになります。また、除雪や道路の穴の補修等は、どちらの所有とは関係なく個人の義務です。
 
:そうなのですね。色々問題はあるもののRuelleはやっぱり素敵なゾーンですね。カナダでは継続してもらいたいですね。
 
:もちろんRuelleの成功例もたくさんあります。Ruelleでマーケットを開いているところもあり、皆さんが研修でご覧になったBoisFrancの開発もRuelleを具体化しています。車は建物の横から地下のガレージに入り、個人使用のベランダ以外の土地は(ガレージの上部)は芝生になり、近隣住民の憩いの場になっています。具体的な『道』はありませんが、みんなの空間です。
まさに、近隣住宅を含めた『向こう3軒両隣り』コンセプトだと思います。
 
 
また、バンクーバーの戸建て住宅街でもRuelleのコンセプトを取り入れた計画が始まっているようです。
 
 
 
動画
 
:最近では、甦ってきているのですね。昌子さんの紹介してくださったホームページをネットサーフィンしましたが、どれも素敵な感じです。丁度江戸時代の長屋の前の井戸端会議のスペースですね。現代人が忘れていた感覚は取り戻したいですね。







 

2014年10月3日金曜日

海外の設計士

聞き手T:高原
聞き手Y:山口
受け手M:モントリオールJCPデザイン増本氏 

 

T:日本では、住宅設計を目指す方は、学生時代から建築に関わる全般のこと、例えば
  法規や建築史、建築工法、構造計算、建築材料、デザインを学んでいます。
  海外の設計士を目指す学生も、同じなのでしょうか。美術的な面はいかが
  でしょうか。昌子さんの経験をもとに教えていただけないでしょうか。

 
M:それでは、ケベック州で建築関係の仕事に就きたい学生についてお話しします。
  ここでは、建築専門学部はエンジニアリング学部に含まれています。
  また、建築専門学部とは違い、デザインを専門とする学部がモントリオール大学
  にあり、インテリア、ランドスケープ、アーキテクチュア、アーバンプランニング
  などの学科があります。その他には私立のデザインスクールがあり、主に店舗
  デザインやCGデザインなどメディア関係のデザイナーを養成しています。
  大学の建築専門学部へは自作のポルトフォリオを提出しなければならないため、
  デザインスクールで実際の表現力を養う学生も多くいます。

 
T:自作のポルトフォリオの提出ですか。

 
M:そうです。入学申請と共に提出するポルトフォリオは入試試験に匹敵するもので、
  最低10種類の自作のコピーか写真を提出します。内容は、手書き図面、絵、彫刻、
  コンピューターグラフィックス、詳細図、模型など様々な手法を駆使して表現し、
  A4サイズに製本された最高2.5㎝厚のものです。入学の決め手は、日ごろからの
  高成績と自分のアイディアやコンセプトを巧みに表現できるスキルをすでに身に
  つけていることです。

 

T:ほう。建築が好きだからとか、一般学科の成績が良い学生が入学できるわけでは
  ないという事ですね。入学するのに、適正がみられ、素質のある人、努力した人が
  入学できる仕組みになっているというわけですね。

 
M:卒業後は、建築士免許試験に応募するためには、最低5600時間のインターン期間が
  必要ですので、通常3年かかり、その期間のコーチングをしてくれる仕事を
  得ることから始まります。学生は、在籍時からアルバイトやネットワーキング
  などを通じて将来計画を構築します。

 
Y:入学段階から専門的なスキルを必要とされるのですね。具体的に入学してからは、
  どのようなことを学ばれるのでしょうか。


M:授業内容を見ると、歴史、社会史、美術史などを学んでいるようです。
 

Y:学ぶ内容は、日本も、北米も、大きく違いはないかもしれませんね。

 
M:そうですね。システム自体はあまり変わらないでしょうね。違う点は、建築のような
  専門に入る学生はすでに年齢がいった方が多いということです。
   高校から直接入学する人の方が珍しく、大抵は仕事をして学費を稼いでからとか、
  仕事をしながら単位を少しずつ取るとか、学費と生活費を稼ぎながらの人が
  殆どです。資格を取れば高収入が約束されますが、それだけ狭き門となっています。
  フランスも、私が卒業したころはマスターを出れば建築家として仕事に
  つけましたが、今は少し違うようですね。今は、北米同様建築協会に所属して保険に
  入らなければ実務にはつけません。






2014年8月28日木曜日

北米の建物規制


聞き手T:高原
聞き手Y:山口
受け手M:モントリオールJCPデザイン増本氏 


 

T:先回のQA北米のガーデニングの時に、道路側フロントヤードの芝生の管理では、
  町を美しく保つ為の、規制をご紹介いただきました。そういえば、カナダ研修でも
  感じたことですけれども、どの家のフロントも、そのストリートは芝生が連続して
  いました。これは芝生の管理以外に、このストリートは、此処まで芝生を貼りなさい
  という規定があるからと想像します。これと同じように建物にも、デザイン上で
  規定があるのでしょうか。

 

M:建設に関する法律は各州に任されていますが連邦政府作成の法を使用する州と独自の
  法を持つ州があります。ケベック州は、州政府の建築基準法を適応しますが、
  それぞれの行政地区もコミュニティとしての住まいのハーモニーを保つために街独特
  の条例を追加しています。

 

Y:例えば、どんな規定がありますか。

 

20世紀初頭にダウンタウンからロワイヤル山をトンネルで抜けた郊外に造成開発
  された住宅地でTMR (Town of Mount Royal)というところがあります。こちらは、
  ガーデンシティ構想のもと作られました。現在は裕福な住宅地として人気の地区
  ですが、コミュニティの景観を保つために、開発年代に合わせたゾーニングに沿い
  建てられる家のデザインが決められています。
 
 


 

phase 1 Faubourg house,  Garden house

phase 2  English mansion, New England, Georgian Canadian style

phase 3  Cottage, Split-level house, Prairie house, bungalow

また、こちらはガーデンシティをテーマとして作られた町なので、庭もphase 1では75%以上、phase 2では70%以上、phase 3では60%以上の緑で覆われていることが定められています。
 

Y:建てられるデザイン様式が決められているのですね~。中央の公園を囲むように
  分けられているのも面白いですね。


 

M:また、飛行場後に開発されつつあるBois Francという住宅地は、地域全体の景観や
  ハーモニーを保つため、外観デザインや使用できる建材が決まっています。フロント
  ヤードの美観を保つためには、地下にあるガレージへのエントリーは、建物のサイド
  からと決められています。Westmountという住宅地は、エリアによって制約があり、
  道路から50フィート(約15m)も下がらないといけないエリアがあります。外壁は
  煉瓦または石で、窓の高さや幅まで決められています。
 

Y:へ~、窓の高さや幅まで徹底しているのですね。大体、この一つのコミュニティの
  ルールや計画が出来上がるのに、どれくらいの年月をかけられるのでしょうか。
  また、そのコミュニティが完成するまでに、ある程度時間がかかると思いますが、
  途中で、ルールが変わるということも時にはあったりするのでしょうか?


M:TMR市が開発されたのは1912年、Westmount地区はカナダが始まった時からの歴史を
  持ちますが、Westmount市となったのは、1895年です。地形の制約上、これから
  建てる場所はなく、更地にして新しく建てることを禁止している地区もありますし、
  新築となると現代の法規が適用されるため制約も多くなりますから、大体土台を
  残して上を新しくする方法がとられます。これも地区によって70%以上の取り壊し
  禁止とか、さまざまな規制があります。TMR市の場合、見直しを必要とする条例は、
  市議会によって決議され、最新は20127月のようです。条例は、厳しく改正される
  ことがあっても緩むことはありません。それぞれのMunicipality(市当局)が条例を
  作成施行し、違反者は罰せられます。
 

Y:完全に、不動産がデベロッパー任せにはならないという事ですね。市が介入する
  ことで、街はまとまり、結果的に『美しい街並み=価値が下がらない街』を実現して
  いるのでしょう。100年も前からこんな合理的な考えで開発されているという事が
  圧巻です。